散らかった六畳間へのメッセージ

好きなことを好きなだけ。

あなたのヒーローは、誰ですか?〜Snow Man無観客デビューライブを観て


音楽とは、ヒーローである。

 

 

幼い頃は、見ていたアニメや特撮ドラマの登場キャラクターに憧れ、活躍するシーンに合わせて流れる歌が大好きでクリスマスに主題歌やサントラのCDをおねだりした。


小学生の頃、バラエティ番組で無理難題に挑戦するタレント達が歌う楽曲に夢中になり、初めてひとりでお小遣いを握りしめてCD屋へ向かった。


思春期特有の不安定な気持ちを抱えていた頃には、大好きなバンドのライブに行った。MCでは普通のお兄さん達の渾身の演奏に圧倒され、強くはなれない揺れてる自分のままでいいんだと何度も救われた。


「悩んだ時に背中を押してくれて、悲しい時に寄り添ってくれるヒーロー」


私にとって音楽を作り出し表現する人達はそんな存在であると感じたことが音楽を好きになった始まりであり全てであった。


 


社会人になり、週1回以上のペースでライブ会場へ足を運ぶようになった。好みは少しずつ変われど、どんな時も傍らに音楽を感じられることが日々の癒しであり生き甲斐だった。CDショップやSNSでの音楽に関する話題も常にチェックしていた。


しかし、贅沢なことに私はこの恵まれた環境に慣れてしまっていたところがあった。

仕事の疲れが残るようになった身体で会場に入っても、どこか集中することが出来ない日が続いた。昨年末辺りから、ライブを生で観る奇跡を1秒でも忘れてしまう自分にふと悲しさを覚えた。


好きなものとの向き合い方をそろそろ変えなければいけないのかなあ。


そんな考えを抱いたまま、ウイルスによってライブ会場に入ることが許されなくなってしまった。

 


 

「その後ろのハンガー、誰の顔?」

 

2020年春、私は感染症対策による外出自粛要請を受けて、音楽好きの仲間ともビデオ通話のみで会うようになっていた。


とあるミュージシャンのライブ会場で知り合い仲良くなった友人が、デビューしたての若手アイドルに突然ハマったらしいとは噂に聞いていて、その日のオンライン飲み会でどのグループなのか教えてもらった。


Snow Man


一応J-POP好きとしてトレンドの曲は常にリサーチしていたつもりであったが、恥ずかしながら知っているのはグループの名前と、巷で話題のSixTONESと同時デビューした人たち、ということだけ。過去に似た名前の合唱団いたよね?とは思ったが、それはまた違うらしい。

その日も彼女の部屋にグッズとして飾られていた「ふっかさん」だけを覚えて終わった。

 

  

それなのに、3ヵ月後には私は彼らのデビューシングルと主演舞台のBlu-rayを購入するまでに至った。


 

6月、Snow Manの人数すら知らない状態でジャニーズ事務所主催の配信ライブを観た。

新しさの中にもavexアーティストらしさ溢れるダンサブルなデビュー曲「D.D.」、EDM調の「Crazy F-R-E-S-H Beat」などクセになる楽曲と渡辺翔太の儚くも力強い歌声、ラウールの圧倒的なオーラなど…期待値を遥かに超えてきて気になる存在になった。


 

その後、7月の音楽特番で披露されたミディアムナンバー「KISSIN' MY LIPS」で完全ノックアウトされた。


全英詞にアコースティックギターとベースが効いたトラックで楽曲自体のクオリティが高く6月の配信でもいいな、とは思っていたのだが、その日は復帰した岩本照含む9人の歌とダンスから放たれたエネルギーに圧倒されてしまった。


それぞれが強烈な個性を放つため決して動きが完全にシンクロしているわけではなかったのに、しっかりまとまりバランスが取れている。それを可能にしてしまう全員のパフォーマンススキルの高さ。全員が魅力的。


デビュー1年目でこの曲を自分達のモノとして完璧に咀嚼出来ていることにまさに「衝撃」を受け、しばらく頭から離れなかった。


数日後には、絶対に覚えきれないと思っていたメンバー全員の名前と顔を把握していた。彼らの情報をチェックするという新しい習慣によって、どこにも行けない毎日が突然潤いだした。

 

 

今年春に行われるはずが中止となり、10月22日より4日間配信のみで全9公演開催されたデビュー後初のワンマンライブ「Snow Man ASIA TOUR 2D.2D.」。


行けるわけなんてなかった公演を観ることが出来るありがたみと、本当は行くはずだったファンや観客を迎えられなかったメンバー・スタッフの悔しさを考え、複雑な気持ちを抱えながら視聴チケットを購入し自宅の「神席」で開演を待った。


開演からほぼ休憩なしで40分経ち、ようやくMCに入った。一息ついたと同時につい私は声に出してしまった


「やりやがったな…Snow Man


これまでテレビ番組やオンラインイベントでは、衣装チェンジなどを収録ならではの演出で魅せてくれた彼ら。

デビューライブが配信になりどういうアプローチをするのだろう、と観ていたが、これは、配信ならではの演出変更をほぼやらずにお客さんがそこにいるかのようにやるつもりか…?


  


彼らはとにかく動く。


「Make It Hot」での天井からのド派手な登場から始まり、「Acrobatic」では手を振りながらポールのついたトロッコでアリーナを外周、そのまま突入した「ナミダの海を越えて行け」ではアリーナ席最後方からセンターステージまで自分の脚で走る、走る、走る。

緩急こそつけていたものの、ステージ移動以外はほぼ踊る。ノンストップで歌う。

 

動き回るからこそこれでもか、と背景に映る空席。ダイナミックなパフォーマンスや演出により寂しさは感じさせなかったが、時折ライトが置かれた客席の方を向いて歌い、手を振るメンバーたちを目にすると

「自分が生でライブを見れなくてもいいから会場を観客で埋めてあげたかった」

という気持ちが強くなった。

 

しかし彼らはラストの楽曲である「D.D.」を歌い終えるまで寂しそうな顔を見せなかった。全ての瞬間を意味のあるものにして楽しもう、と気合いに満ちていることは明らかだった。


印象的だったのは前半パートの「Party!Party!Party!」、後半の「終わらないMemories」から「Don't Hold Back」の花道が人数分に分割されるステージを利用していた場面だ。引きのカメラワークが特に美しかった。


また、クライマックスで激しいダンスナンバーを続けた最後に岩本照・宮館涼太が壁をかけ登ってからバク宙してみせるまでの流れには、画面の前で無意識に拍手してしまった。

 

 

これまで私が視聴してきた無観客配信ライブは、客席を感じさせないステージングが多かった。

彼らも、「配信で魅せる」という意味合いを考えれば、身体への負担を考慮し公演数を減らしたり、ステージ移動の演出を削ったりする選択肢もあったのでは?とも個人的には思う。


しかしチームSnow Manは、あえて会場中に用意された自分たちのためだけの仕掛けを使い切り、臨場感を持たせた。まさしく「観客ゼロのデビューライブ」。

その姿を、可能な限り多くのファンに神席で見届けてもらい、一生に一度のデビュー公演への想いを昇華させたのではないだろうか。トロッコも銀テープも彼らを祝福しているかのようだった。


客席を見つめながら大きなスクリーンの中に消えていくラストは、映画「ターミネーター2」の溶鉱炉のシーンなのではないかと錯覚するくらい興奮と切なさが同時に襲ってきた。

この圧巻のステージが、私の中で配信ライブの在り方としてひとつの新しい答えになった。彼らがそうしてしまった。


ここまで惹き込まれると、他のジャニーズ所属グループが今どのようにステージと向き合っているのかも気になってくる。それぞれ、かなり趣向を凝らした構成だと聞いている。他のグループのファンの友人と語り合う機会を設けたい。

もともと興味はあったし、ライブを観たことがあるグループもいるけれど、これを機に本格的にジャニーズに詳しくなりそうだ。

 

 


最終公演、最後の挨拶での、阿部亮平の言葉に私はハッとした。


「僕はアイドルってヒーローみたいなものだなって本気で思っています。(中略)僕たちの存在であなたが元気になるかもしれない。そんなちょっとのことでいい。あなたを支えたい。」

  

そうか。ヒーローだったんだ。


私にとってSnow Manは、職場と家を往復する毎日、ギスギスした世の中に揉まれて荒んだ心に突然現れた9人の光り輝くニューヒーローだったのか。

良い歳して何を、とあなたは笑うかもしれない。でも私は本気だ。

 

今、世間からは「エンタメは不要不急」と言われている。


少しずつイベントが再開し始めているとはいえ、新しい生活様式のもと自由な外出が制限されている今、私のようなファンは直接声援を送ることすら出来ない。

それにも関わらず彼らは発信し続ける。私が頼りたいときすぐそばに彼らの声がある。口ずさむだけで、勇気が出ることもある。


ずっとライブに行き続けてきているバンドも、いつの間にかハマってしまったアイドルも、どんなに悔しい状況でも命を削るかのように全力で元気や癒しを配ってくれている。等身大の、傷だらけのヒーロー。


この文を読んでくださっているあなたにも、思い浮かぶ誰かがいるのではないだろうか。


私はSnow Manを好きになったおかげで、音楽に魅了され始めた頃の鮮やかな気持ちを思い出すことが出来た。

 

  

12月4日から全国の映画館でSnow Man主演作品「滝沢歌舞伎ZERO 2020 The Movie」が公開予定だ。

ライブとはまた一味違う彼らの姿を堪能できるように、そしていつか満員の会場で9人に会える日が来るように、今を踏ん張りたい。